2019年12月8日(日)に東京医科歯科大学で行われた講演会「ある日、診療室で起きる偶発症や合併症と向き合う時のために ー口腔外科指導医の実体験からー 講師:津山泰彦(三井記念病院歯科・口腔外科部長)」に参加しました。
日常的に局所麻酔を使用し観血的な処置を行う歯科医院では、偶発症や合併症といった危険と常に隣り合わせです。そのため患者さんにとっては遠回りに感じることもあるかもしれませんが、安全に処置を行うためには問診を基本とし、医科の主治医とのやり取り等の準備が必要です。また時には勇気を持って処置を中断・延期することも必要となる場合もあるかもしれません。今回の講演会では様々な合併症および偶発症について、症例を交えながら口腔外科の最前線でご活躍されている津山先生のお話を聞きました。
歯科医院で起こる可能性が高い偶発症・合併症には次の3つが挙げられます。
①術後感染症
②術後出血
③神経麻痺
①術後感染症について。近年、抗菌薬の適正使用が叫ばれています。未来の耐性菌の出現を抑えるため、慣例によって投薬するのではなく狙いをもって抗菌薬を使用する必要があります。リスク因子がない患者さんでの通常の抜歯程度であれば抗菌薬は不要でしょう。しかし、細菌性心内膜炎の既往やコントロール不良の糖尿病患者さん(HbA1c7%以上)、膠原病等によりステロイドや免疫抑制剤を服用している患者さんには、適切な抗菌薬の使用が求められます。
②術後出血について。抜歯術を代表とする観血的な外科処置を日常的に行う歯科医院では、術中および術後の異常出血は避けられないものと考えられます。そのため異常出血が起きた時に適切に対応する準備が必要不可欠です。講演の中で、実際に三井記念病院で津山先生が行っている止血法(サージセルとテルプラグを使用する方法)について学ぶことができました。新たな方法を知ることで手技の引き出しが増え、当院でもより安全に処置が進められるようになったと思います。また抗血小板薬(アスピリン、プラビックス)や抗凝固薬(ワルファリン、イグザレルト)、線溶療法(ウロキナーゼ)等の薬剤についても確認しました。
③神経麻痺について。特に親知らずの抜歯やインプラント埋入時に生じる可能性が高く、その場合の対応法について学びました。麻痺が生じた場合の効果的な薬剤の使用のタイミングだけでなく、そもそも麻痺が起こる可能性がある場合の診断(パノラマ、CTの読影等)についても学びました。
上記以外にも、抜歯を中断する判断基準や、誤嚥・誤飲、気腫、組織壊死(ガス壊疽菌)、歯や器具の残存・迷入などの適切な対応法を学びました。我々歯科医師が行うべき対応や適切な医師との連携について確認しました。
最後に、講演の中で津山先生はご自身を励ましてくれた言葉を紹介してくれました。
・合併症を経験したことがない外科医はいない。
・合併症を経験したことがない医者は臨床をしていない。または臨床経験が少ない。
・合併症から逃げるのか、より患者さんに寄り添う姿勢を見せるかで、その後の患者さんとの関係、自分自身の人間力差が出る。
振り返ると私自身も合併症を経験しています。最近でも反省することがあります。うまく説明できないこともありました。人として未熟であったと思う場面もあります。しかし地域医療に微力でも貢献するため、これらを胸に明日からの臨床に挑みたいと思います。
・関連ページ ≫【診療案内:口腔外科】
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